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ベッカム選手と中村選手は、非常に人気のあるサッカー選手であり、本フットボールサイエンスラボ(FSL)にも色々な問い合わせが多数寄せられている。なかでも、彼等の芸術的なフリーキックについての照会が多いので、ここで技術的な側面を概説したい。 相手チームを恐怖に陥れ、ファンを熱狂させる彼等のフリーキックは、インフロント(足の内側)を使ったカーブキックを主に持いており、それ自体はそれほど特殊なテクニックではない。むしろ、ロベルト・カルロス選手等がしばしば見せるアウトフロント(足の外側)を使ったカーブキックの方がめずらしいといえる。両方のカーブキックに共通する技術的要素はボールをスピン(回転)させながら飛ばすということである(スピンするボール軌跡が曲がる原理については野球のカーブと同じで、マグナス効果によるものである)。では、ベッカム選手と中村選手はどのようなテクニックによってボールにスピンをかけているのであろうか?基本的セオリーを2つあげることができる。 先ず1番目のセオリーはインフロントのフェースベクトルとスイングベクトルをずらしてキックすることである(Fig.1/Basic Theory 沁Q照)。図中の上部イラストのようにインパクトする足の面の方向(インフロントの面の方向)が、足のスイングする運動方向と同じである場合、サイドスピン(横方向の回転)は殆どかからず、インサイドキックのようにボールを真っ直ぐ押し出すキックになる。しかし、図中の下部イラストのように、インパクトする足の面の方向が、足のスイングする運動方向と異なり、ある角度を持ってずれる場合、そのインパクト時の力はボールの重心方向と接線方向に分解して考えることができる。すると、この接線方向の力はボールとインフロント部の摩擦力によってスピンを生むことになる。また、ボールの重心方向の力はボールを移動させる運動を生む、つまり飛ばす力となる。 |
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Basic Theory of the infront curve kick -I- |
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Fig. 1 |
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2番目のセオリーは、ボールの重心からややずれた所をキックすることである(Fig.2/Basic Theory 参照)。図中の下部イラストのように、インパクト時のボールの大変形に伴って、インパクト時全体の力ベクトルが重心を通らない場合、モーメント(回転力)が生まれ、ボールがスピンすることになる。このスピンはボールが大きく変形することによって可能になるものであり、変形しない球(剛球)では発生しないものである。 ベッカム選手と中村選手はこのようなセオリーに基づいてボールにスピンをかけフリーキックでゴールを量産しているわけであるが、その特徴はどんな所にあるのであろうか?一般には、この両選手のフリーキックがあまりにも鮮やかに決まるため、他の選手よりボールの回転数が多く、大きく曲がっていると思われがちである。しかし、実際にボールスピン数を計測してみると、ほとんど5-8回転毎秒程度であり、それほど他の選手と比べて多いわけではない(Jリーグ選手レベルで10回転毎秒ぐらいのスピンをかけれる選手は少なくない)。一方、ボールスピードを計測してみると、30m毎秒程度、あるいはそれ以上のスピードとなっており、インステップキックによるシュートのボールスピードとそれ程変わらないレベルにまで達していることがわかる。つまり、ベッカム選手と中村選手のフリーキックの特徴は大きく曲がるというより、速くて曲がるということである。速いが故に空気抵抗の減速効果も大きく、結果的に急激に変化し、大きく曲がったように見えたり感じたりするのである。このような速いボールスピードを得ようとする場合、ボールの中心をあまりずらさずにキックすることがポイントになる(ボールの回転数が上がる程、ボールスピードは落ちる)。ボールの回転を意識しすぎてボールサイドを擦るようなインフロントキックでは、確かにボールスピン数は上がるが、それ以上にボールスピードが落ちてしまうことになる。Basic Theory 氓ナ示したようにボールの中心を通るキックでも足のフェースの向きさえずらしておけばスピンは発生するので、あまりボールの中心を外さずキックすることで、ベッカム選手と中村選手のフリーキックのような、速くて曲がるカーブキックが可能となる。 |
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Basic Theory of the infront curve kick -II-
(Offset distance generates moment of the ball) |
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Fig. 2 |
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| また、この両選手におけるフリーキック時の蹴り足(スイングプレーン)と地面との角度をみると、インステップキック等と比べかなり狭い、つまり傾いていることがわかる。これは、ボールスピンの回転軸が垂直、つまりスピン方向が水平になりやすい効果があると考えられる。一般に、インフロントキックでボールスピンをかけた場合、インパクトのアライメント(位置関係)によってわずかに回転軸が垂直よりやや外側を向く傾向にある(Fig.3/Effect of the axis of rotation 参照)。このスピン軸の外傾は、ボールの横方向に働く力を減少させると同時に、上向きの力を発生させ、ボールを浮き上がらせることになる。ベッカム選手と中村選手はキック時のスイングプレーンを寝かせることにより、これらマイナスの働きを減少させ、より大きな横方向の力(偏向力)と下方向の力を発生させることにより、結果的に曲がって落ちるカーブキックを実現させているといえる。 | |
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Effect of the axis of rotation
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Fig. 3 |
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さらに、Basic Theory 氓ナ説明したようなフェースベクトルとスイングベクトルをずらしたインフロントキックの場合、インステップキック等と比べ、スイングプレーンに対するボールの飛び出し方向が大きく軸足側にずれてくる(ベッカム選手なら左肩側、中村選手なら右肩側)ことになる(Basic Theory でも同様の効果あり)。これは、常日頃、一般的なキックによるスイングプレーンとボール飛び出し方向との関係が、無意識的に体に染み付いているゴールキーパーを大いに惑わすことになり、タイミングによっては反応する事さえ出来なくなる場合がある。 ベッカム選手と中村選手はこれらの効果を巧みに操って、速くて曲がって落ちるカーブキックを実現し、キックの正確性と相まって、芸術的なゴールを上げ続けているのである。
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