少年サッカーコーチ秘話2/子どもの驚異的な成長力


特別研究員 上間 匠(東京大学大学院)

 世の中にツイていない日というものは確実に存在するようです。赤信号ばかり引っかかったり、自動販売機にお金を入れても動かなかったり、時には鳩に違うウンを付けられたりと、なぜ自分ばっかりと思うくらいそれらが一度に起こることがあるのです。
 そしてサッカーの練習中でも、リフティングの最中に他の子のボールが飛んできて邪魔された、自分の順番のときに相手がミスをして順番が連続でフイなった、たまたま(攻撃が大好きなのに)守備ばかりする羽目になった、などの場面に子ども達も直面するのです。しかしそれは彼らにとって「今日はツイてないや」の一言で済ませることなど出来ません。その不満をいかに紛らわしサッカーへと再び集中させるか、少年サッカーのコーチ達にとっても考えどころです。
 ところが子ども達にとっては、そんなツイてなさも成長の糧なのです。


 その子は、確かにその日ツイていませんでした。
 ケチの付きはじめは、ウォーミングアップでした。単なる鬼ごっこだったのですが、終了間際に躓いて少し激しく転んでしまいました。そんなときの子どもの必殺技といえば・・・そう、「泣く」です。声を上げ涙を流して泣く彼を、コーチも慰め、周りの子ども達も「大丈夫?」などの声をかけてきます。しかしながら、終了間際に転んで最後にオニになってしまったので簡単な罰ゲームをする羽目になりました。その辺は、子どもの世界は非常にシビアで、転んで泣いたとしても、同情どころかしっかりとタッチされてオニになってしまうのです。
 気を取り直して練習に続ける彼を次なる危険が襲います。今度は、ドッチボールの最中です。ドッチボールといっても、下手投げで軽く投げられたボール(複数)を足でコントロールしてからキャッチするというルールのものでしたが、その最中、一方のボールに気をとられていた彼の頭に別の相手が投げたボールが当たってしまったのです。突然頭に衝撃を受けてしまった彼は、再び必殺技「号泣」を繰り出します。必殺技を受けたコーチは泣きじゃくる彼を「大丈夫か?でも、ドッチボールなんだから、よく周りを見ていつも集中していないといけないよ」となだめすかします。
 しかし、本当にツイてないのはこれからでした。シュート練習で自分の順番を終え、先程の教訓を生かし後続のシュートに気を払いながらボールを拾おうとする彼を不運が襲います。別の人が打った強烈なシュートがポストに跳ね返り、全く思わぬ方向から彼の下腹部を強襲したのです。今度は気を付けていたのに・・・。この頃になると、周りも「今日はコイツ厄日だ」ということに気づいてしまいます。コーチも、「またコイツか」と半ば笑い、半ばあきれながら応対します。

 どんな子にとってもゲームは一番の楽しみ。今日はツイなかったけど、そんなことゲームになれば・・・とは甘い幻想でした。一進一退の攻防の中、その場面はやってきたのでした。相手チームの子どもがゴール前でチャンス、そしてそれを防ごうとする例の子・・・。

ご想像の通り、シュートは見事彼の腹部に命中。しかも跳ね返ったところを相手に押し込まれて味方は失点してしまったのでした。一度ウーンと唸って我慢しようとしますが、堪えきれず、蹲って本日四度目の必殺技。もはやコーチは苦笑いしながら苦しい慰めを言うしかありませんでした。

 練習の帰り道、その子のツイなさが当然話題に上ったとき、コーチたちはあることに気づくのです。始めは、転んで泣いていた子が、たった数時間のうちに、自ら身を呈してシュートを防ごうとし、痛みを堪えるようになる。なんと成長の早いことだろうと。

 ゴールデン・エイジともいわれる子ども達は、技術の習得だけでなく様々な面でまさに驚くべき成長を見せるのです。




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